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<<   作成日時 : 2012/02/18 12:50   >>

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『ヒミズ』画像主人公のひとり、住田佑一(染谷将太)は、自堕落な母親に代わってボート屋を営んでいます。
そのボート屋の前には茶沢景子(二階堂ふみ)の言葉を借りれば「野趣あふれる」池があるんですね。
そしてその池の中央あたりに、震災で沈んだらしい小屋が半分だけその姿を露わにしているわけです。

池に浮かぶこの小屋のショットは、映画の中でたびたび繰り返されます。
すると、次第に僕たちの心のうちには、『気狂いピエロ』(1965年、ジャン=リュック・ゴダール監督)で引用されていた「僕は地中海の巨大な疑問符」という一節が思い出されてくる。
もちろん目の前に映し出されているのは地中海とは似ても似つかぬみすぼらしい池です。
でも、そこに見えるのは間違いなく「あの」巨大な疑問符だ、そう僕たちに思えてくるんですね。

実際この『ヒミズ』という映画には、冒頭から『気狂いピエロ』を想起させるショットが何度も挿入されています。
やがて映画の後半、住田が原色の絵の具を顔に塗りたくるに至って、その引用は頂点に達すると言っていいでしょう。
そのとき僕たちは、彼がジャン=ポール・ベルモンド演じる『気狂いピエロ』の主人公の末裔だという事実を確信するに違いありません。
彼は地中海を望むあの崖の上で爆死したフェルディナンの、正当な系譜に連なる者なのです。

一方で、この映画は震災からの「復興」が一つのテーマとなっていることも否定はできないでしょう。
瓦礫の山となった街の風景が繰り返し映し出される中、主人公の「転落」と「再生」が「復興」と重ねあわされていく。
エンディングで茶沢が叫び続ける「頑張れ」の一語は、確かにそのことを裏付けているようにも思えます。
もちろん原作にはなかった震災の設定、風景を持ちこんだのは監督自身だという事実も見逃せないはずです。
でも、園子温監督がどこまで「復興」というテーマに意欲的であるのかは、少し疑問かもしれません。

たとえば「暴力」についてはどうか。
確かにこの映画には何度となく暴力シーンが描かれています。
ただしそれは『恋の罪』(2011年)で性的な生態が図鑑のように列挙されていたのと似ているでしょう。
「暴力」とはこうしたもの、と語られてはいても、映画そのものが暴力的なものになっているわけではない。
実のところ、「復興」についても同じことが言えるわけです。
この映画が、「復興をめぐる映画」という<秩序>的思考を自らなぞっているように見えたとしても、決して不思議ではないんですね。

だとすれば、いったん「復興」から離れて、あの茶沢の「頑張れ」という叫びに耳を傾ける必要がありそうです。
あの叫びは何だったのか。
『気狂いピエロ』のフェルディナンは崖の上で爆死しました。
それなら彼の末裔である住田もまた、フェルディナン同様「莫迦げた死」を遂げたとして不都合はないでしょう。
ただし大切なのは、引用すること自体より、引用の先に何があるのか、ということです。
だから何よりもその先が描かれなければならない。
巨大な疑問符が浮かぶ池からずぶ濡れの住田が上がってくるのは、もちろんそのためです。

住田と茶沢は並んで歩き、そして走り始めます。
僕たちは走る二人をカメラが正面からとらえていることに注目したい。
それは『勝手にしやがれ』(1959年、ジャン=リュック・ゴダール監督)のラストシークェンスを逆行するショットです。
あのとき、ジャン=ポール・ベルモンドは撃たれた背中を押さえ、よろめきながら走っていた。
カメラは彼を後方から追いかけていたんですね。
この『ヒミズ』ではカメラと被写体の関係が逆になっているわけです。

かつて故・神代辰巳監督はそのデビュー作『かぶりつき人生』(1968年)のラストで、この『勝手にしやがれ』のシーンを再現しています。
そのとき彼の作品を彩っていたのは、ゴダールという人と同時代に映画を撮ることの諦念や呪詛のようなものだった。
それはきっと、神代作品すべてに通底する意識なのかもしれません。
対してこの『ヒミズ』には、たぶんゴダール以後にも映画を撮り続けるだろうことへの覚悟のようなものが感じられないでしょうか。
それがカメラと被写体の逆転であり、そしてあの「頑張れ」の叫びであるように思えるんですね。
『気狂いピエロ』の先に『勝手にしやがれ』のラストが配置された理由はそこにあるはずです。

だから『ヒミズ』は、「復興の映画」であるよりも決意そのものであり、映画の希望そのものであると言っていいでしょう。
それは園子温監督の意図に関わらず、たぶんそうなのです。
気狂いピエロの末裔は、今や新たな映画の地平に向かって走り出しているに違いありません。



『ヒミズ』
製作国 日本
製作年 2011年
公開年月日 2012/01/14
製作会社 「ヒミズ」フィルムパートナーズ
配給 ギャガ
カラー/サイズ カラー
上映時間 130分
レイティング PG-12
監督 園子温
アクション監督 坂口拓
脚本 園子温
原作 古谷実 「ヤングマガジン」連載
エグゼクティブプロデューサー 小竹里美
製作 依田巽
プロデューサー 梅川治男 山崎雅史
撮影 谷川創平
美術 松塚隆史
音楽 原田智英
録音 深田晃
音響効果 齋藤昌利
照明 金子康博
編集 伊藤潤一
衣裳/スタイリスト 村上利香
ヘアメイク 本田真理子
ライン・プロデューサー 鈴木剛
助監督 木ノ本豪
メイキング 船木光
出演 染谷将太 二階堂ふみ 渡辺哲 吹越満 神楽坂恵 光石研 渡辺真紀子 黒沢あすか でんでん 村上淳 窪塚洋介 吉高由里子 西島隆弘 鈴木杏 諏訪太朗 川屋せっちん モト冬樹 堀部圭亮
スチル画像 (C)2011「ヒミズ」フィルムパートナーズ



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